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嚥下チームと精神科リエゾンチームによる早期介入がQOLの向上に寄与した症例 (2013.12.27)

Case report 嚥下チームと精神科リエゾンチームによる早期介入がQOLの向上に寄与した症例 Key words: dysphagia ,dementia, case report はじめに アルツハイマー認知症患者における摂食・嚥下機能は,嚥下5期の中でも特に先行期の障害を起こすことで知られている.これらの患者に対し,患者の状態に合わせた摂食・嚥下リハビリテーションを行うには,摂食・嚥下機能に合わせた訓練だけではなく,患者の心理状態や認知機能を踏まえた,多職種によるチームアプローチが必要不可欠である.当院においても,認知症患者に対しては,言語聴覚士や管理栄養士を中心とした嚥下チームの介入に加え,心療内科医,薬剤師を中心とした精神科リエゾンチームの介入を行っている.今回2つのチームの連携により,経口摂取が不可能であった症例を経口摂取可能とし,患者の嚥下機能の改善および栄養状態の維持,その結果QOLの向上に寄与出来た症例を経験したので報告する. 症例 症例:80歳 男性 一人暮らし 現疾患アルツハイマー認知症 主訴:重度の嚥下障害,易興奮性 既往歴:10年前胃癌 5年前胆石 身体所見:身長160㎝,体重44kg,BMI17.2kg/m²,%平常時体重91.7% 生化学検査データ:血清Alb値2.9 g/ dl, TP5.9g/ dl 消化器症状:なし,るい痩:軽度 現病歴:2ヶ月前,自宅で倒れているのを家族に発見されA病院に救急搬送(JCSⅠ-10~20)となり,脱水と腎機能障害による熱中症と診断された.嚥下造影検査(以下VF)を施行するも重度の嚥下障害が認められたため経口摂取は行わず,経鼻経管栄養法のみで栄養管理を行っていた.病態が安定したため,嚥下評価・訓練目的で当院入院となった. 入院時初期評価 摂食嚥下機能スクリーニング  口腔内は乾燥し汚染あり.舌は,単独運動はかろうじて可能も可動域は狭く,交互反復運動は協調性・巧緻性に欠けた.舌のボリューム不足,舌圧の低下もみられ,舌筋の筋肉量低下・舌筋群の筋力低下が認められた.改訂水飲み検査(以下MWST)の結果は評点4(嚥下あり,呼吸変化なし,むせ,湿性嗄声なし),フードテスト(以下FT)の結果は評点4(嚥下あり,呼吸変化なし,むせ,湿性嗄声なし,追加嚥下で口腔内残留は消失)であった. 認知機能評価  意識清明(JCSⅠ-1~2),コミュニケーションを行うことは可能である.頭部CTにて前頭葉~側頭葉を中心とした脳萎縮を認めた.改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)14/30点,認知機能検査(Mini Mental Statement Test: MMSE)13/30点と中等度の認知機能障害が疑われた.認知症に伴う精神症状の評価尺度であるNPIスコア(Neuropsychiatric Inventor)は81/120点と認知症の行動・心理症状の悪化を認めた(表1). 経過 第1病日  入院時,摂食嚥下機能スクリーニングを実施(入院時初期評価参照). 第4病日  嚥下機能精査のためVFを実施した.食形態はゼリー,ペーストどちらも可能であった.舌筋の筋力低下による送り込み困難と,舌骨上筋群の筋力低下による嚥下惹起遅延を認めるも,代償法として顎引き嚥下が有効であった.摂食・嚥下能力のグレード(藤島)はGr.6(3食経口摂取+補助栄養),摂食・嚥下障害患者における摂食状況のレベル(藤島)はLv.1(嚥下訓練を行っていない)であった. この結果を踏まえ,主治医と嚥下チームによりカンファレンスを行った.食事は,顎引き嚥下を行うこと,口腔内残留と咽頭残留のクリアランス目的にゼリーを用いた交互嚥下を行うことを徹底し,ペースト食(700kcal),経鼻経管栄養(1200kcal)で栄養管理を行うこととした.  同日昼食にて,直接的嚥下訓練を実施した.口頭指示の受け入れが可能であったため,看護部と協力のもと,一日三回の直接的嚥下訓練が可能となった. 第8病日  経鼻経管栄養チューブ,夜間自己抜去あり.再挿入を検討したが,再度自己抜去の危険性が高かったため,経口摂取量を調整し(エネルギー100kcal増量),再挿入は行わず経過観察とした. 第11病日  ペースト食に対して食欲不振が生じ,経口摂取量の減少あり,空腹感による夜間の不眠が認められた.嚥下機能の再評価を行い,主食の増量と食形態の変更(ソフト食),夜食として補助食品の提供を行った(合計1600kcal). 第14病日  栄養状態の安定や院内生活の慣れに伴い,次第に行動範囲の拡大がみられ始めた.認知症周辺症状も活発化し,徘徊,易怒性亢進がみられるようになった.食事指導を拒否し,嚥下訓練継続困難な状態となったため,嚥下チームと精神科リエゾンチームでカンファレンスを行い,認知症周辺症状の低減対策や治療方針の連携を図った.  嚥下機能への影響(薬剤性パーキンソン症候群等)を考慮した薬剤・分量を,精神科医師と薬剤師で検討し,非定型抗精神病薬のなかでも精神症状により効果が強いとされるリスペリドンの少量投与(1mg)を開始した.同時に,易刺激性や興奮を和らげるために,回想法,リアリティオリエンテーション,認知刺激法などを組み合わせた訓練を実施した. 第18病日  精神科リエゾンチームの介入により,NPIスコアは31/120点となり,認知症周辺症状のうち,興奮,無表情,脱抑制,易刺激性,異常行動に著明な改善が見られた.先行期障害の改善により,嚥下訓練の継続が可能となった.訓練の他に,食具の変更や食事内容の変更,デイルームにて多数のスタッフの見守りの中で食事をするなど,状況に応じて細やかな環境調整を行った.結果,安全な経口摂取が可能となり,食事摂取量も安定した. 第21病日  精神症状はさらに改善し、NPIスコアは29/120点となった(表1).  嚥下機能は,特に舌の巧緻性・協調性・筋力に向上みられ,ガラガラうがいが可能となった.MWSTとFTの結果は評点4のままであったが,喉頭挙上スピードや挙上位置に向上がみられた.食形態は,主食は粥,副食はソフト食,水分はストレート水の摂取が可能となり,摂食・嚥下能力のグレード(藤島)はGr.8(特別に嚥下しにくい食品を除き,3食経口摂取),摂食・嚥下障害患者における摂食状況のレベル(藤島)はLv.7(3食の嚥下食を経口摂取している,代替栄養は行っていない)となった.  経口摂取のみ(1500kcal)で栄養管理が可能となったため認知症病棟へ転院となった. 考察  摂食嚥下リハビリテーションを行う上で誤嚥性肺炎の防止に努め訓練を行うことは必要不可欠であるが,特に認知症患者においてはその訓練が行えない現状があり,治療・回復・訓練を目的とする「キュア」よりも,機能低下を防ぐ支援・維持・介助を目的とした「ケア」が中心となる.本症例においても,アルツハイマー認知症による問題が大きく,重度の嚥下障害に対してケアによる保存的治療が施されていた.しかしながら,葭原らによると,「高齢者において,食欲と生活の質(QOL)が有意に関連していることを示しており,さらに,口腔内症状の改善がQOLの向上には必要である」と述べている.高齢者にとって,食事は活動的な日常生活を支える生きがい感になっており,保存的治療にて,経口摂取という人間本来の欲求を満たされない患者のQOLは著しく低下していたと思われる.  認知症患者の嚥下障害は,嚥下5期の中でも特に先行期の影響が大きく,先行期障害として現れる中核症状や認知症周辺症状は多種多様であり,対象患者に生じている症状の判別が非常に重要となる.特にアルツハイマー認知症は,見当識障害,記憶障害などの中核症状のみならず異常行動,妄想,脱抑制などの認知症周辺症状をきたし,これらの症状によって嚥下障害へのアプローチは困難に陥ることが多い(図1).  本症例の場合,嚥下チームが早期介入することで,適切な評価,診断,治療プランを作成・実施することができ,嚥下機能の回復,訓練による経口摂取が可能と判断されたにもかかわらず,経過の中で幾度もアルツハイマー認知症の症状による訓練実施困難に陥った.症例は,中核症状としては,記憶障害と実行機能障害を呈しており,認知症周辺症状としては,徘徊行動を認め,アルツハイマー認知症の病期(重症度)は,軽度から中等度であったと推察される(図2).記憶障害については,義歯紛失の記憶の欠如により,義歯がないため食事を拒否することがあり,また,病識の欠如から,食事形態・食事内容に対し不満がつのり食事を拒否するようになり,何度も病状説明を行わなければならない状況があった.実行機能障害については,食事場面では問題がみられなかったものの,日常生活の段取りや計画がうまく組み立てられず同じ動作や行動を繰り返しており精神的疲労が生じていた.これら中核症状によるストレスが易刺激性を引き出す要因となり,嚥下訓練の妨げとなったと思われる.  これら認知症症状に対して,嚥下チームは,何度でも丁寧に説明を行う,患者の思いを傾聴・理解して相手のペースに合わせる,食事形態の配慮や食具の変更,細やかな環境調整を行うなど,医師,看護師,看護助手,管理栄養士,言語聴覚士で連携して訓練を行った.また,不穏行動や精神状態などの日々の様子をスタッフ全員で情報共有することで,誤嚥性肺炎を一度も起こすことなく摂食嚥下訓練を実施することができた.認知症周辺症状の活発化に対しては,精神科リエゾンチームが専門的に介入を行い,適切な投薬の選別と高次脳機能障害に対する訓練(回想法など)による治療を行うことで,興奮,無表情,脱抑制,易刺激性,異常行動の改善が認められ,訓練拒否を軽減することができたと言える.  野原は,「これまでの嚥下リハビリテーションは回復期の脳血管疾患障害を対象としたものが主であるが,脳卒中に対する方法・技術論をそのまま適用するのではなく,応用して,認知症という病態に応じたリハビリを提供していかなければならないことを常に頭において臨床に臨む必要がある」と述べている.これを可能にするためには他職種の介入による多くの知見が必要であり,日々の変化に沿った細やかな判断・対応が必要である.本症例の場合,早期段階で各専門職種がチームとして介入したことにより,適切なケア(介助・支援)のみならず,キュア(訓練・機能回復)も可能となり,患者のQOL向上に資することができた.今後,症例の蓄積により,さらなる患者の生活の質の向上に寄与していきたい. まとめ ① 当院において入院中の嚥下機能が低下していた認知症症例に対し,嚥下チームと精神科リエゾンチームの協業による専門性を有した早期介入を試みた. ② 言語聴覚士と栄養士からなる嚥下チームと精神科医,薬剤師からなる精神科リエゾンチームが密に連携することにより摂食嚥下障害患者へのリハビリテーションの効果を上げていくことができた. 文献 1)鎌倉やよい編: 嚥下障害ナーシング-フィジカルアセスメントから嚥下訓練へ.医学書院, 2000. 2)才藤栄一監編: 摂食,嚥下リハビリテーション.第2版, 医歯薬出版, 2007. 3)田中ちさと監: 認知症のケアで困っていること. エキスパートナース, 22(15): 28-58, 2006. 4)六角僚子: 認知症ケアの考え方と技術. 医学書院, 2005. 5) 認知症ケア学会編: 認知症ケア標準テキスト 改訂・認知症ケアの実際Ⅰ 総論,ワールドプランニング,2007. 6) 日本嚥下障害臨床研究会編:嚥下障害の臨床-リハビリテーションの考え方と実際‐第2版,p222-224,医歯薬出版,1998 7) Cohen-mansfield J, Billig N. Agitated vehaviors in the elderly. L A conceptual review.J Am Geriatr Soc. 1986; 34(10):711-721.Review 7)America Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition. Washington, DC; American Psychiatric Association;1994:135-155 8)野原幹司:認知症患者の摂食・嚥下リハビリテーション南山堂 2011. 9)葭原明弘,清田義和,片岡照二郎,花田信弘,宮崎秀夫「地域在住高齢者の食欲とQOLとの関連」口腔衛生学会雑誌 54(3), 241-248, 2004-07-30. コメント。・*・:≡( ε:)  一緒に組んだ某先生の連絡ミスにより、論文提出できなくなった作品。 忙しい中どれだけ時間を割いて書いたと思ってんだぁぁあ(怒)・・・という気持ちは捨てきれないが、個人的に書きたくない症例さんだったのでこれで良かったかなとも。(※ごく一般的な臨床であり、ケース発表する程ではない)。 やっぱり自分が書きたいケースじゃないとダメだね。まだ手直しが必要だけどこれで終了。主訴おかしいぜ、絶対。笑 勉強不足とチーム人材(選別)の大切さをひしひしと感じたケースでした。もう2度と某先生とは組まない(笑)